―キャリアの原点はゲームソフトの販促活動
約25年にわたってITやゲーム業界に携わったのち、2022年8月に個人事務所「かまた社会保険労務士事務所」を設立した社労士の鎌田愼司さん。異例とも言えるキャリアチェンジの理由や今後の目標を伺いました。
ーーまずは経歴について伺いたいのですが、社労士になる以前はずっとITやゲーム業界で働いていらっしゃったんですよね。
鎌田愼司(以下、鎌田):はい。私はカルチャーブレーン(現:カルチャーブレーンエクセル)というゲーム開発会社が運営していた専門学校を卒業していまして、1997年にそのまま同社に入社しました。専門学校ではプログラミングから企画、デザインまで、ゲーム制作の基礎の基礎を幅広く学び、カルチャーブレーンにも企画志望で入社したのですが、最初は営業を任されて、主に『バーチャル飛龍の拳』というプレイステーション用ソフトの販促活動で関東一円のゲーム屋さんをまわっていました。
やっぱり専門学校に行ったからには早々にクリエイターとしての腕をつけて一人前になりたいという気持ちがあったので、最初は営業の仕事に抵抗を持っていたんです。ただゲーム屋の店長さんたちと話をし、ついでに掘り出し物の商品を買わせてもらったり、広報活動の一環で『ゲーム王国』という当時放送されていたテレビ番組に出演したりと、純粋なゲーム好きとして貴重で楽しい時間を過ごさせていただいたなと思います。また営業活動の合間に新作のデバッグチームの一員としてデバッグをさせてもらったりしていたのですが、システム化された開発プロセスを体得したいと思い、業務アプリケーション開発の現場に転職しました。
ーーなぜゲーム業界からIT業界にキャリアチェンジされたのでしょうか。
鎌田:当時はゲーム会社からゲーム会社にという業界内転職がかなり難しかったんです。今みたいにスマホなんてないのはもちろん、インターネットすらもあまり普及していなかったので求人自体がそもそも少なく、ゲーム業界に身を置くことが難しい時代でしたね。キャリアチェンジ後は約10年間、業務系のプログラマーやシステムエンジニアとして様々な企業や地方自治体のシステム導入案件を担当しました。その間もゲーム業界に戻りたいという気持ちはありつつも、なかなか機会を得られずにいました。
―ゲーム業界に復帰&プロマネとしての新たなスタート
ーーそこからゲーム業界に戻られたきっかけは何だったのでしょうか。
鎌田:実は2006年に一度、私は個人事業主になっているんです。というのも、自分のキャリアを見直すために一旦会社を辞めて、埼玉県の職業訓練校にしばらく通っていたのですが、ちょうどその時起業を目指す人のための「起業家養成科」というコースがあって、それこそ社労士や税理士、司法書士として事務所の設立を目指す人たちや様々な職種で起業を目指す人たちと一緒に法律や経営、資金調達に関する知識を学ぶことになったんです。それが直接のきっかけではないのですが、ちょうど以前一緒に働いていたエンジニアの方から一緒に仕事をしないかと声をかけていただいたのもあってフリーランスでやってみようと。
そこからは一個人としてシステムの開発案件を受けたり、仲間と一緒に会社を立ち上げて大手企業の案件も担当したりもしましたが、リーマンショックの流れを受けて解散。紆余曲折ありながらも、5年ほど経った頃にたまたまNHN Japan(現NHN PlayArt)というゲーム会社から仕事の依頼を受けたんです。
ーーようやくゲーム業界に戻ってくることができたんですね。
鎌田:本当に念願叶ってという感じで、そこからは水を得た魚のようでしたね。NHN Japanとは最初は個人事業主として契約を結び、当時会社が運営していたセガやスクウェア・エニックスが開発したゲームを配信するオンラインゲームポータルサイトのシステム構築を担当していました。ただ、私が社員になった頃に会社としても大きな方針転換があり、スマホゲームを制作する事業部が立ち上がり、その流れに乗ってサーバーエンジニアからゲームエンジニアに転向しました。
最後の方はLINE PLAYというアバターサービス内のコミュニケーションゲーム制作に技術ディレクターとして携わり、そこで「やっぱり自分がやりたいのはゲーム作りだ」という思いが強まって、よりゲーム開発にコミットできる会社への転職を決意。当時、『ブレイブ フロンティア』(以下、ブレフロ)というスマホゲームアプリで脚光を浴びていたエイリムにプロジェクトマネージャーとして参画することになりました。
ーープロジェクトマネージャーという仕事を選んだ理由は?
鎌田:やっぱり幅広く業務に関われるプロマネという仕事に魅力を感じたのが大きいですね。プログラマーとしては自身の能力に限界が見えていたのもありますし、どちらかといえばプログラマーの人たちが力を発揮できるような環境整備の方が自分に向いているんじゃないかという思いもありました。『ブレフロ』のプロジェクトに参画してからの約1年間はニコ生の番組立ち上げなど運営のサポート。次に『ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス』(以下、FFBE)のプロジェクト立ち上げからプロマネとして関わらせていただき、主に先方との窓口業務に従事しました。社内社外の人との関わり、調整みたいなところで言えば、今の仕事の原点になっているかもしれませんね。
―プロマネになって気づいた「ゲーム作りに大切なのは人」
ーーその後、社労士の資格を取得されたのはクリエイターからマネジメント側に転身されたのが一つのきっかけになっているのでしょうか。
鎌田:そうですね。エイリムを退職後、いくつか他の会社でもプロマネを経験したのですが、そこで改めて感じたのは「ゲーム作りに大切なのは何よりも人」ということでした。傍から見るとITやゲーム会社って人よりも機械みたいなイメージがあるかもしれませんが、全然人で。とあるプロジェクトで開発・運営人材を確保するために派遣さんや業務委託の方の登用に携わったのですが、その方々が次々と辞めてしまったことがあったんですね。
そういう経験もあり、人を雇うのであれば、雇った人の権利をしっかり守るためのルールが必要だし、一人ひとりが伸び伸びと活躍できるような場を雇用する側が作る必要があるのではないかと強く感じました。ちょうどその時期に私自身プロマネとして一つのタイトルをリリースさせて燃え尽きたのもあって、プロジェクトから退き、その時間を使って社労士資格の勉強を始めるに至ったんです。
ーー資格を取得後、2022年の夏にご自身の事務所を立ち上げてから現在までどのようなお仕事をされてきたのでしょうか。
鎌田:実は開業前からとある企業様から人事労務支援業務を委託していただけ、会社の就業規則の見直しだったり、独立される方のお手伝いをさせていただきながら社労士としての業務を一から学んできました。もともとITやゲーム業界に特化した社労士になりたいと思っていたので、他の社労士事務所に所属するのではなく、はじめから開業という形をとりましたが、ご紹介などもあり現時点では半々くらいの比率で他業界からの依頼も受けている状況です。
―ゲーム業界でキャリアを終えられる人を少しでも増やしたい
ーー鎌田さん自身、クリエイターとマネージャーの両方から携わってきたゲーム業界の課題はどこにあると思われますか?
鎌田:第一に思うのは「30〜40年ほど現場で働き、定年を迎えてキャリアを終える」というのが、やっぱりまだ見えづらい業界だと思うんです。どこかで限界を感じられて、引退される方が非常に多いですし、残っているベテランの方々も会社に属しているというよりは職人的な存在になっていることがほとんどで、それって業界としてあまり健全ではないと私は思っています。
ーーちなみにゲーム業界でキャリアを終える人が少ないのは、どういったことが原因なのでしょうか。
鎌田:キャリアマップが描きづらいということが、一つの理由として挙げられます。ゲームクリエイターとして活躍した後に今度はマネージャーとしてプロジェクトを回していく側になるのか、それとも独立してクリエイター街道を一直線に進むのか。先ほどもお伝えしたように現時点では途中で引退される方も多いので、自分自身の未来も描けない。つまり、ロールモデルの不在が原因だと思われます。その問題を解消するためにも、多くの人が少しでも長く、できればキャリアを終えるまでゲーム業界で働けるような人事雇用システムを構築することが必要。社労士として、そのお手伝いができればと思っています。
―IT・ゲーム業界から転身した社労士としての強み
ーー鎌田さんのようにITやゲームといった異業種から社労士にキャリアチェンジされる方は非常に珍しいと思うのですが、ご自身では過去の経験が今の仕事にどう生かされていると思われますか。
鎌田:大前提として、どの業界でも人事の現場は非常にIT化が遅れているんですね。今お手伝いさせていただいている会社さんでもかなりアナログな方法で人事情報を管理していたりするので、そうしたことが業務効率化の足かせになっている場合が多いんです。ただ社労士の全員が全員、ITの領域に強いわけではないですし、どちらかといえば弱いのかなと思います。その点、私の場合はプログラマーやシステムエンジニアとして業務系システムの導入案件をいくつも経験してきたので、「より効率的に働くためにこうしたシステムを導入しませんか?」という提案はもちろん、実際の導入からその後のサポート、情報セキュリティに関する相談まで一通り対応することができます。
ーーゲーム業界に関してはいかがでしょうか。
鎌田:ゲームに関しては、その業界で働く人たちの気持ちを経験者として汲み取れるという点が強みだと思っています。またマネジメント側も経験しているので、ゲームビジネスというものの特殊性を分かった上でどういう人事計画を立てればいいかについてアドバイスすることが可能です。またクリエイター側に立ち、その人にとって本当に正社員に落ち着くのがいいのか、それとも独立して自由に働ける方がいいのかと柔軟に考えられるのも私にしかできないことなんじゃないかなと思います。この業界を経験していない社労士からしてみれば、「正社員の方がいいに決まってる」という感覚が一般的だと思いますので。だけど、私はゲーム業界から転身した唯一無二の社労士としてこの業界の現状を把握した上で、会社側としても現場を円滑に回せて、働く側としても働きやすい制度ってなんだろうっていうことを経営者や人事の方と一緒に開拓していけたらと思います。
―尊敬するゲームクリエイターたちが働きやすい現場を
ーー現在担当されている会社さんからは、どういう相談が多いのでしょうか。
鎌田:人が入ったり辞めたりに関する一般的な労務相談はもちろん、「労働基準監督署の調査が入ることになったので、その対応をお願いしたいです」という駆け込み寺的な緊急相談もありました。そうした時には人事の方と落ち着いて調査に応じ、労働基準監督官の方からご指摘いただく点はきちんといただいたうえで期限内に改善につなげていくという対応を取りますが、できればそうなる前にご契約いただければ、きちんと法令に則った労務管理についてご指導やアドバイスをさせていただくことが可能です。人事労務に関しては度々法改正がありますが、その内容を見ると国がどういう会社運営をしていってほしいのかが分かるんですね。現場がそういう流れに合わせていった方がいいところもありますし、逆に法整備の方が整っていないのであれば、社労士として現場の声を代弁し、国に訴えかけていけるようにもなりたいと思っています。
ーーこれからの目標を教えてください。
鎌田:現在は私1人で案件を回している個人事務所ですが、これからはどんどん人を採用して大きな案件も受けられるよう、早急に事務所の体制を整えていきたいです。私はとにかくゲームが好きですし、ゲームクリエイター大リスペクトなので、そういう方々が少しでも働きやすい現場作りのお手伝いができればこんなに幸せなことはありません。いずれは「ゲーム業界の人事労務といえば、かまた社会保険労務士事務所だよね」と言っていただけるように、精一杯頑張っていきたいです。
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